「(御)恩送り」という言葉をご存じですか?
「恩返し」と比べて、かなりマイナーな言葉かもしれない。
恩を受けた人に直接返すのは「恩返し」。
受けた恩を直接相手に返すのではなく周りの似た誰かに送るということが「恩送り」である。
その送った恩は巡り巡って恩を授けてくれた人や家族や友人に届いていく…
この「(ご)恩送り」というのは、江戸時代に普通にあった風習だと作家井上ひさしは述べている。
江戸時代は生活が苦しく、大店(おおだな)から援助を受けた小僧が、商いに成功し、これを世話になった大店に返すのではなく、貧しい子どもたちに援助していくという話などが有名だ。
この頃の江戸は、100万都市になっていて、一日のあちらこちらで「ご恩送り」が行われていた。想像すると、江戸は、毎日、親切の嵐が吹き荒れていたのかもしれない。
「恩返し」というのは、それで終わってしまうが「送る」というのは、循環することになる、「恩のリサイクル」である。
また、最近の研究によると北海道大学大学院の竹澤正哲准教授らの発表では、恩送り型と評判型(恩返しをこのように表現)の行動では、脳が活発に働いている部位が違うことがわかった。
評判型…脳は、後頭葉にある背側楔前部(はいそくけつぜんぶ)が活性化している。
ここは論理的な推論や損得の推測に関わっている部位。
恩送り型…脳は、前島皮質と呼ばれる部位が活性化している。
この前頭皮質が他者への感情的な共感に関わっている部位。
昔の日本では、助け合いが当たり前のように行われていた。諸外国からの文化が入り「個」という文化が生まれ。いつの間にか「孤」になってしまったのではと感じる。
もっと人々とふれ合い、共感する社会があってもよいのではないだろうか…幸い、震災などでは、若いボランティアさんたちが活躍する姿を見かけるが、これもひとつの「ご恩送り」だと思う。
【注意】(2020年1月記)掲載記事は、内容がかわっている場合があります。